このサイトで退職金の税金を扱っていると、必ずぶつかるのがiDeCoや企業型DC(確定拠出年金)の話だ。積み立てているときの節税はよく語られるが、実は「どう受け取るか」で税金が大きく変わる。しかも2026年1月から、その受け取りルールが改正された。
正直に書くと、これは私自身に直接関わるテーマでもある。私の勤務先では、退職金がそもそも企業型DC(確定拠出年金の企業版)の形になっていて、毎月の給与から決まった額が自動で積み立てられている。だからこそ「将来どう受け取るのが得なのか」は、他人事ではなく自分の問題として調べた。本記事では、まず受け取り方の基本を整理し、2026年改正の中身を確認したうえで、最後に「そもそも私たちの世代にこのルールは現実的なのか」という点まで踏み込みたい。
iDeCo・企業型DCの受け取り方は3つ
確定拠出年金(iDeCoや企業型DC)の受け取り方は、大きく3パターンある。
- 一時金:まとめて一括で受け取る
- 年金:分割して、複数年にわたり受け取る
- 併用:一部を一時金、残りを年金で受け取る
そして、どの方法を選ぶかで、使える税金の控除が変わってくる。
一時金なら「退職所得控除」、年金なら「公的年金等控除」
一時金で受け取る場合は、会社の退職金と同じ退職所得控除という枠が使える。退職所得控除は勤続年数(加入年数)に応じて決まり、勤続20年までは1年あたり40万円、20年を超えると1年あたり70万円に増える仕組みだ(この「20年の壁」については別記事で詳しく検証している)。
一方、年金形式で受け取る場合は、公的年金等控除という別の枠が使われる。65歳以上であれば、公的年金とあわせて年間110万円程度までは課税されない範囲がある。
一時金で使う退職所得控除と、年金で使う公的年金等控除は、まったく別の枠だ。「一時金は退職所得控除」「年金は公的年金等控除」とセットで覚えておくと、受け取り方を比較するときに混乱しにくい。
ここまでは、それぞれ単独で受け取るならシンプルな話だ。問題は次に出てくる。
本題:退職金とDCを「両方とも一時金」で受け取るとき
会社の退職金と、iDeCo・企業型DCの両方を、どちらも一時金で受け取るケースを考える。
このとき、退職所得控除という同じ枠を二重取りできないように、受け取る時期が近いと控除額を減らす「調整ルール」が設けられている。これがいわゆる「5年ルール」「10年ルール」「19年ルール」と呼ばれるものだ。受け取る順番によって、適用されるルールが変わる。
2026年改正:「5年ルール」が「10年ルール」に
今回の改正の中心がこれだ。2026年1月1日以降に受け取るDCの一時金から、従来の「5年ルール」が「10年ルール」に変更された。
具体的には、iDeCo・企業型DCを先に受け取り、その後に会社の退職金を受け取る場合のルールだ。改正後は、DCの一時金を受け取ったあと10年未満で退職金を受け取ると、退職金側の退職所得控除が減らされる。両方の控除を満額使うには、受け取り間隔を10年以上空ける必要が出てきた。
たとえばDCを15年分受け取り、その数年後に勤続30年の退職金を受け取ると、退職金の控除計算では重複期間が差し引かれ、本来使えるはずだった控除が大きく目減りする。順番とタイミング次第で、数十万円から数百万円の差が出る可能性がある。
退職金が先なら「19年ルール」(こちらは変更なし)
逆に、会社の退職金を先に受け取り、その後にDCを受け取る場合は「19年ルール」が適用される。こちらは今回の改正でも変わっていない。退職金を受け取ってから前年以前19年以内にあたると調整対象になるため、満額使うには20年近く空ける必要がある。
順番別に整理すると、こうなる。
| 受け取る順番 | 適用ルール | 満額に必要な間隔 |
|---|---|---|
| DC(iDeCo等)が先 → 退職金が後 | 10年ルール(2026年〜) | 10年以上 |
| 退職金が先 → DC(iDeCo等)が後 | 19年ルール(変更なし) | 20年近く |
DC(iDeCo等)の一時金受け取りは原則75歳までという上限があるため、「退職金を先に受け取って20年空ける」のは現実的に難しい。結果として、税制面だけ見れば「DCを先、退職金を後」の順が有利になるケースが多い、という整理になる。
ここからは私見:その「10年」「20年」、本当に空けられるのか
ここからは、20代の私自身の率直な見方を書く。
この改正は、控除の重複利用による行きすぎた節税を是正し、税制の公平性を高めるという意図によるものだ。理屈としては理解できる。ただ、当事者として正直に感じるのは、「その10年・20年という間隔を、これから働く世代が本当に確保できるのか」という疑問だ。
いま定年は65歳が一つの基準だが、私たちの世代が受け取る頃には、定年や受給開始年齢が70歳に近づいている可能性が十分にある。そうなると、退職金とDCを10年以上ずらして受け取る、という設計そのものが成立しにくくなる。「控除を満額使うために10年待とう」と思っても、待っているうちに受給の上限年齢に達してしまい、一時金で受け取る形を選べなくなる——そんなケースが、むしろ増えていくのではないかと感じる。
だから私個人としては、こう考えている。仮に控除調整で数十万円損をすることになっても、確実に受け取れるうちに、ほぼ同時に受け取る方を選ぶと思う。「損をしないために10年待つ」より、「待っているうちに受け取れなくなるリスク」の方を、私はより現実的な脅威として見ている。コツコツ積み立てた人ほど、このルールの影響を受けやすいというのも、引っかかる点だ。
もちろんこれは一つの考え方にすぎない。受け取り年齢や退職金の額、その他の収入によって最適解は人それぞれ変わる。ただ、「控除の最適化」だけがゴールではない、という視点は持っておきたい。
まとめ
- iDeCo・企業型DCの受け取り方は一時金・年金・併用の3つ
- 一時金は退職所得控除、年金は公的年金等控除を使う
- 退職金とDCを両方一時金で受け取ると、控除の「調整ルール」がかかる
- 2026年1月から、DCが先のケースは「5年ルール」→「10年ルール」に(満額には10年以上の間隔)
- 退職金が先のケースは「19年ルール」(変更なし、20年近く)
- 受け取り年齢の上限もあるため、控除最適化が常に現実的とは限らない
自分のDCがいくらになりそうか、退職金の見込みと合わせて、受け取り順とタイミングを早めにシミュレーションしておくのが現実的なアプローチになる。